やる気の科学(全5巻と実戦編)

やる気の出し方|やる気の科学第1巻

やる気のない中学生

どうすればやる気は出るのか?

やる気の科学第1巻

どうすればやる気は出るのか?


【ああ…やる気が出ない…】

 「うちの子はやる気がない・・・。」とひとりごとを言い、「あんた!やる気を出しなさいよ!」「本当にやる気がないんだから!」とお子さんに。そうおっしゃる。
そして「あなた!あの子にやる気を出すように注意してよ!」と、ビールを飲んでまったりとテレビやネット動画を眺めているパートナーに不満をぶつける。
よくある家庭の日常生活です。


 「やる気がない」世のお母さん方が日々、一年365日おっしゃっているお言葉ですよね。
確かに「やる気」がなければ何も始めることはできません。努力を続けることも不可能です。
これは勉強だけでなく、仕事、スポーツでも同じです。

 「やる気」が大事です。

 「そんなことはわかっている!何を当たり前なことを言ってるんだ !」
ご指摘ごもっともです。


【やる気があれば塾なんかいらない・・・】

 それでは、どうやってお子さんにやる気を出してもらうことができるでしょうか?
お子さんに「やる気」さえあれば何も高いお金を出して(赤間塾の授業料は安いですよ・・・)塾なんかに子供を行かせなくていいのに。
それに仕事や家事の合間を縫って、面倒な送り迎えをしなければならない。
そんなところにお子さんを行かさなくていいんです。
その上、塾に行ったところで、なかなか子供の成績はあがりません。全く理不尽です。(赤間塾のヤナギはがんばって成績を上げますよ・・・あの手この手で・・・)

 そうです、「やる気」さえあればお子さんは何も親にガミガミ言われなくても、学校から帰るや否や自分で机に向かいます。
せっせと教科書を開いて勉強を始めます。
いわゆる優等生のお子さんです。まれに、本当にまれにいらっしゃいます。

 全国のお子さんがこんな優等生になってしまえば、日本中の学習塾、予備校、家庭教師派遣会社、ネット通信教育、その他もろもろの悪しき日本の教育産業は壊滅です。
塾講師は失業です。私も就職あっせんサイトに登録し、ハローワークに通わなければなりません。

これは教育界の革命です。たいへん結構なことです。私の不幸は日本の幸福です。

 しかし、実際には駅前に大手塾のフランチャイズがテナントビルの一番目立つところに巨大な看板を並べ立てています。
我が国の教育産業は隆盛を極めています。
福岡市ならば天神や博多駅周辺の一等地に大手予備校の巨大なビルがそびえたってます。ああ、うらやましい。


【赤間塾のヤナギもやる気はなかった】

つまり、裏を返せば、かくもお子さんのやる気を出すことは難しいとはいえます。

 あえてもう一つこの困難さを立証するのならば・・・お父さんお母さん・・・あなたたちもかつて、お父さんお母さん(お子さんの祖父母様ですね)から毎日一回は「やる気を出しなさい!」「お前は本当にやる気がない!」とお小言を頂戴していたはずです。
かく言う塾長である、私赤間塾のヤナギはそんなことはありません、頂戴するお小言は毎日一回ではなく軽く10回は越えてましたから。


【やる気とはモチベーション】

 この「やる気」ですが、心理学では「モチベーション」といいます。モチベーションを研究されている慶応義塾大学の鹿毛雅治教授は「心理学でいうモチベーションとは、何らかの方向性を持った行動が始まり、持続し、終結するプロセスを意味する用語です。一時的なやる気だけでなく持続的な『意欲』も含まれます」(Newton2022年4月号P 34 )と説明されています。


【「ぶっ殺してやる!」もモチベーション】

 「やる気」というと何やらよいことを思い浮かべますが、「モチベーション」はいい悪いは関係ありません。
「人を助けたい」も「ぶん殴ってやる!」もどちらも立派なモチベーションです。
また「絶対に勉強なんかやらないぞ!」「こんなブラック企業辞めてやる!」
つまり「避けたい」「やりたくない」も「負のモチベーション」といって、これも立派なモチベーションです。
すると「ぶっ壊してやる!」「ぶっ殺してやる!」とウクライナでやってることはプーチンさんにとって、とっても大きなモチベーションですね。
ものすごく迷惑ですが・・・。


【内発的動機づけと外発的動機づけ】

 実はモチベーションには2種類あります。
「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」です。

 「内発的動機づけ」とは、ある行動が楽しい、面白いといった理由で自発的に取り組むことです。
例えば「好きな漫画をよむ」、「映画を見に行く」、「スーパーマリオをやる」、「バスケやテニスをやる」、「凍った岸壁にへばりつく」(赤間塾のヤナギの場合)などがあります。

 一方「「外発的動機づけ」はなんらかの報酬を得るために、または罰を避けるために行動することです。

「金のために仕事をする」、「うるさい上司のノルマをこなすために営業にまわる」、「落第するとまずいから勉強する」といったところです。
行動は別の目的(金稼ぎ、パワハラ上司よけ、留年逃れ)の手段になってます。


【昭和はアメとムチが大好き】

 鹿毛正弘教授は「今でこそ内発的動機付けが重視されるようになりましたが、20世紀半ばまでモチベーションといえば「外発的動機づけ」、すなわちアメとムチを中心に考えるのが当たり前でした」(Newton2022年4月号P 34)と話されています。

 それでは20世紀半ば、うるわしい昭和の高度成長期には「根性見せろ!」、「いい大学に行って、いい会社に就職するとおいしいめにあえるぞぉ―!」
とまぁ、今は団塊の世代になってしまったお子様のしりをまっかっかになるまでひっぱたいて、ひたすら「外発的動機づけ」をしていたのですね。

【凋落の日本の30年】

しかし、21世紀も22年ほど経った現在、いかほどの効果があるのでしょうか。
もう30年間以上日本の所得は増えてません・・・というより一人当たりの購買力は減ってます。一人当たりの国民所得も韓国に2017年~2018年に抜かれてしまいました。
デカイ会社が冷酷無残にも平気で紙切れ一枚わたして何千人もいっぺんにリストラするご時世です。
非正規が就業数の40%を軽く超える世の中です。
あぁ、昔はよかったなぁ・・・。


【ほっといてくれ!オレにかまうな!】

 閑話休題。ところで人間は「ほっといてくれ」「自分のことは自分で決める!」といった欲求がありますから「外発的動機づけ」には「親や教師にコントロールされている」といった不快感が付いて回ります。
「私たちは他者にいわれてやるのではなく、みずからやりたいのです」(Newton2022年4月号P34)(鹿毛正弘教授)

人間には報酬や罰とは別に、「学びたい」、「自分をよくしたい」、「好奇心を満たしたい」といった性質がしっかりあるわけですね。
赤間塾のヤナギのような、ある種の変な人は寒くてつらい冬山だって喜々として出かけて行って岩にへばり付くのです。
こういったことが「内発的動機づけ」であるのは皆様ご理解いただけることと思います。
もちろん、この「内発的動機づけ」には「うれしい」、「興味深い」といったポジティブな感覚が生まれて好ましいことはいうまでもありません。


 「ただ外発的動機付けが一概によくないものとはいえません」(Newton2022年4月号P35)(鹿毛正弘教授)

学校には校則、ルールがあります。大人には刑法、警察があります。赤間塾のヤナギも自動車を運転しているときに頭に赤いランプをつけて白黒に塗られた車に出くわすと思わずアクセルがゆるみます。
また、中学1年生のころは英語が嫌いで嫌いで仕方がありませんでした。
ノートの表紙にEnglishをヨnglishと書いてとなりの者に笑われました。その後しばらくあだ名が「ヨングリッシュ」でした。
しかし、嫌いな英語も無理やりやらされてるうちに、今では誰にも命令されてもいないのにわざわざアメリカのamazonでポチっとして原書を取り寄せて楽しんでいます。
横文字の苦手な人から見れば間違いなく変態です。
ただし、本の内容や作者は自分の好みで選んでます。

 つまり、「外発的動機づけ」でやらされることも社会秩序を保ったり、やらされて、いやいややってみても後から楽しくなったり興味がわいたりするということもある、ということですね。


 ですから、実際には「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」は複雑に入り混じってモチベーションが出来上がってるということになります。


【それでは、うちの子はどうすればいいのよ!】

そ、そうですね・・・そりゃあ「内発的動機づけ」がいいのは間違いありません。
ごほうび目当てに勉強するより自発的に学ぶ方がいいのは間違いありません。
しかし、アメとムチは現実には社会の中に網の目のように張り巡らされています。
私たちは「金が欲しい」、「昇進したい」と思わされて会社に行かされます。
福岡県警のネズミ捕りにおびえて、空いた下り坂の直線道路でアクセルをゆるめます。
われわれはアメとムチから逃れることは不可能です。

【それではアメとムチどちらがいいの?】 

いったいぜんたい早速アメとムチではどちらが有効なのでしょうか? 
こちらの向きには1925年発表の古典的研究が有名です。上の画像をご覧ください。
アメリカの心理学者エリザベス・ハーロック(1898~1988)は9~11歳の子供たち約80人を3グループに分けて算数のテストを行いました。
このグループを各Aグループ、Bグループ、Cグループとしましょう。
答案を子供たちに返す時にAグループには「よくできた」とほめます(ニコニコ)。
Bグループでは「成績が悪い」と意地悪なことを言って叱ります(コラ!)。
Cグループでは何にも言いません、黙ってテスト返却ですね(・・・)。
これを5回繰り返しました。下のイラストをごらんください。
初回は3グループとも成績がほぼ同じでした。
2回目はAグループ(ニコニコ)とBグループ(コラ!)の両方で成績が上がりました。(アメとムチどちらも有効!)ところが、Aグループ(ニコニコ)は3回目のテスト以降も成績が上がり続けたのですが、Bグループ(コラ!)はそこから成績は上がらなくなりました。
ほめること(アメ)は持続的に効きましたが、しかること(ムチ)は短期間にしか効果がなくすぐに効かなくなってきました。 

テストの返し方 Aヨシヨシ Bコラ! C無言
  • Aグループは算数の試験の答案を返す時にほめます。 よくやった!
  • Bグループはしかります。 コラ!
  • Cグループは何にも言いません ・・・
5回の算数のテストの結果 折れ線グラフ

Aグループ(ほめる)、Bグループ(コラ!)、Cグループ(・・・)テストは5回繰り返します。するとAグループは成績が伸びていきます。Bグループの”コラ!”は1回だけ有効。Cグループは伸び悩みです。

【グラフから・・・】 

上のグラフをご覧ください 。

初回は3グループとも成績がほぼ同じでした。
2回目はAグループ(ニコニコ)とBグループ(コラ!)の両方で成績が上がりました。(アメとムチどちらも有効!)ところが、Aグループ(ニコニコ)は3回目のテスト以降も成績が上がり続けたのですが、Bグループ(コラ!)はそこから成績は上がらなくなりました。ほめること(アメ)は持続的に効きましたが、しかること(ムチ)は短期間にしか効果がなく、すぐに効かなくなってきました。この結果から、ほめること(アメ)としかること(ムチ)では、ほめること(アメ)の効果が大きいと言えます。
「当時はモチベーションの概念も確立しておらず、現代の研究とは同列に語れませんが、この結果はインパクトがあったでしょう」(Newton2022年4月号P36)(慶応大学教授鹿毛正弘教授)

その後さまざまな研究によって罰(ムチ)を与えることの否定的な面がわかってきます。

【カベドン営業部長は最低!】
うーん・・・やたらと机をたたいて、壁ドンして、怖い顔ですごんで「おめぇの今月のノルマは達成してるのかよぉぉ!!!」とか「この給料泥棒!!!」と怒鳴り散らす営業部の中間管理職の皆さん、お聞きになりましたか!
キャプテン・ハーロックじゃなかったエリザベス・ハーロック教授の偉大な研究を。
もちろんジャージを着て竹刀を持って振り回すこわい体育会系の先生がた!
そして、オイ!そこのボンクラ塾講師(あ、おれのことじゃん・・・)。 
その後の研究でわかってきたことは「罰(ムチ)によってよくない行動は減るが、よい行動が増えるわけではない」「罰(ムチ)にはその場の一時的な効果しかなく、なれてくると意味がなくなる」ということです。
さらにまずいことには対象者(ムチを食らう人)が不安や恐怖を抱き、萎縮したり逃げ出したりする恐れもあります。

【虐待親の子供の脳みそは小さい】
近年では体罰(殴るける、食事を与えないなど)や暴言などが子どもの脳の発達に悪影響を与える可能性も報告されています。
虐待です。
この頃、よく聞くニュースですね。
確かに虐待を受けた子供の脳みそは小さい傾向があります。
ただ虐待を受けた子供の栄養状態は一般的に悪いので、その効果もあるのではないか?という研究者もいます。
それでも、その研究者も虐待の悪い影響を否定しているわけではありません。つまり、殴ったり、けったり、怒鳴ると子供の脳みそは小さいままです。 
こうしたことから、最近はやりのハウツー本は「ほめてのばす」(この頃では「ほめのば」なんてバズワードまであります)が大はやりです。学習塾の看板や宣伝にもよく「ほめる」「のばす」「やる気スイッチ」なんて大きく書いてありますね。

【ほめりゃいいってもんでもないよ】 
しかし、鹿毛教授はこんな風潮にも一抹の不安を感じるとおっしゃいます。
「確かに、ほめることは一般にモチベーションを高めますが、一方でマイナス面も指摘されています。」(Newton2022年4月号P36)(慶応大学教授鹿毛正弘教授) 
ほめられることで子供たちがそれ以上の努力を放棄してしまったり、ほめ言葉が目的となって、本来あるべき方向性を見失ったりするおそれがある。
また、あまり簡単なことでほめられるとなバカにされたような気になって、むしろ不愉快になるであろう。
なるほど、甘やかすとヤンキーになったり、ほめてもらいたくてカンニングするという感じですかねぇ。 

【ほめ方が大事】
「ただやみくもにほめるのではなく、上手なほめ方が大切です」(Newton2022年4月号P36)(慶応大学教授鹿毛正弘教授) 
何がどうよかったかを具体的に話す、きちんと能力や努力を評価することが有効とされます。 
また、高度なスキルを持つエキスパートを養成する場合は「ここが不十分だ」といった厳しい言葉でモチベーションが高まることもあるといわれています。 
こうなると難しいですね。「具体的」にほめるというのは高度なスキル、技術が要ります。この辺になるとプロの領域です。

私の経験ではいくら「具体的」とはいえ長く、くどくど話すと効果がありません。話が長いと、いくら具体的でも子供には何を言ってるのかわからなくなるからです。子供は長説教は覚えていません。ほめられた内容も忘れてしまいます。よい行動があった時に、すぐ、いいタイミングでほめないとだめですね。このへんは後ほど「やる気の科学実戦編」で触れます。

(参考文献Newton2022年4月号P34~36)