やる気の科学 第5巻
マズローの欲求階層説
報酬(アメ)は創造性を損なう?
マズローの欲求階層説
報酬(アメ)は創造性を損なう?
「リモートではやる気がわかんわ・・・」「モチベーションが維持できない・・・」の声が出てますね。管理職の方も「部下のやる気が把握できない・・・」のご意見もお聞きします。
「モチベーション研究の観点からいうなら、コロナ禍おけるリモートワークは『P―Eフィット」』の問題と見ることができるでしょう」(Newton2022年4月号P43)(慶応大学教授鹿毛正弘教授)
個人(personal)と環境(environment)の相性があります。個人と環境は多様で、この二つが適合しているとモチベーションが高まります。
コロナ禍ではこれは激変しましたね。従来の環境(会社に出勤)に適合していた人のモチベーションは大打撃です。一部の営業や社員教育担当はやりにくいったらありません。確かにパフォーマンスが下るのも無理ありません。
「一方で、もとより個人もまた多様であることを見逃すべきではありません」(Newton2022年4月号P43)(慶応大学教授鹿毛正弘教授)
従来の環境(会社)に適合しずらかったが新しい環境(リモートワーク)にはOKの人もいるはずです。他人と接触は嫌、静かな場所がいい、そんな人にはモチベーションが上がります。不登校の子供がリモート授業で参加しやすくなったり、チャット機能を使って発言するようになったエピソードもあるそうです。
全ての人に合う環境は存在しません。改めて個人と環境のマッチングとモチベーションについて考えてみたいものですね。
【報酬(アメ)は創造性を損なう?】
ここでちょっとした話題をご提供いたします。
ドイツ生まれの(やっとアメリカ人以外の人が出てきた!)カール・ドゥンカー(1903~1940)が行った実験が1945年(第2次世界大戦終結の年です)に発表されました。
最初参加者にお部屋に入っていただきます。お部屋の中の机の上には「蓋のない箱(
大きめのマッチ箱の内箱ですね)に入った画鋲」と「マッチ」があります。(下の左のイラストをご覧ください)「これらを使ってロウソクを壁に取り付けてください」と指示されます。参加者たちはロウソクを画鋲で壁にとめようとしたり、マッチの火でロウソクを溶かしてから壁に接着しようとしたりなさいます。しかし、なかなかうまくいきません。
正解は画鋲が入っていた蓋のない箱(大きめのマッチ箱の内箱)を画鋲で壁に固定してから、そこにロウソクを置くことです。(下のイラストの真ん中をご覧ください)画鋲の入ってる箱をロウソクの台として使うことがミソですね。発想の転換が必要な、なかなかの難問です。
実はぱっと読んだとき赤間塾のヤナギは正解を思いつきませんでした。これではチンパンジーが台を使って吊るしたバナナを取る試験も難しそうです。棒を振り回して力技でバナナをタタキ落とそうと躍起になりそうです。「バナナに棒がとどかないぞ~!」
この研究をもとにカナダ出身の心理学者サム・グラックスバーグは別の実験をなさっていらっしゃいます。発表は1962年です。この実験では参加者達をAグループとBグループに分けます。
A、B両グループ共、上記のロウソクの課題に挑戦していただきます。Aグループには「早くできた人には賞金を与える」と約束しました。(アメ)ですね。Bグループには特になにも言いませんでした。
すると、どうでしょう。どちらのグループが早く正解にたどりついたでしょうか?皆様の予想はいかがでしょう。金に汚い赤間塾のヤナギの予想はAグループの圧勝です!
しかし、結果は報酬(アメ)のないBグループが平均で3分半も早く正解にたどりついたのです。金に汚い赤間塾のヤナギの予想は大外れです。皆様はいかがだったでしょうか。
発想の転換が必要な難問です。
画鋲は箱の中に入っています。
不肖赤間塾のヤナギにはむりです・・・
正解です。
箱を画鋲で壁に止めるのかぁ・・・
むずかしいなぁ・・・
これ見よがしに「箱を使え!」とばかりにおいてます。
発想の転換は要りません。
【簡単な問題には報酬(アメ)が効く!】
さらにグラックスバーグさんは別の実験もなさっています。今度は、同じ実験であらかじめ画鋲を箱からだして机の上に置いておきました。(上のイラストの右をご覧ください)つまり机の上には、蓋なし箱、画鋲、マッチ、ロウソクとお行儀よく並べてあるわけです。この場合、台としていかにも使えそうな箱がこれ見よがしに目に入ります。正解にたどりつくための、めんどくさい発想の転換は要りません。簡単な問題となりました。すると、今度は報酬(アメ)を約束されたAグループの勝ちと相成りました。
この結果には様々なご意見の向きがおありでしょう。
【金に目がくらむと複雑な問題は無理・・・】
日本でもベストセラーになった『モチベーション3.0 』(原題はDrive)の著者作家ダニエル・ピンクさんによると報酬(アメ)があるとまっすぐゴールに向かおうとして視野が狭くなり発想の転換に必要な創造性が損なわれるのだそうです。また最初から解決策が見えている単純な課題では報酬が良い結果につながるそうです。
「20世紀までは報酬が良い結果をもたらす単純な課題が多かった。しかし、21世紀における複雑な課題と向き合うには創造性が必要で、報酬は効果的でない。これからは『好きだからやる』『もっと成長したい』『世界をよくしたい』といった内発的動機づけが重要になる」(Newton2022年4月号P43)(ダニエル・ピンク)そうおっしゃっています。
このダニエル・ピンクさんのご意見も色々と反論もありそうです。とくにウォールストリートの金融センターのパソコン画面の前で根を生やしている、数億円の報酬を平気で要求する、ごうつくばりの連中は異を唱えそうです。
【ステキなほら吹きヒッピーとオタク】
しかし、考えてみるとGoogleの創始者ザッカーバーグがフェイスブックを始めた時にはただの大学内の自己紹介サイトでした。アップルのスティーブ・ジョブズはただのアイデアだけのほら吹きヒッピーです。マイクロソフトのビル・ゲイツだって最初はただのオタクでした。しかし、その後、偉くなるにしたがって、みなさん立派なウォールストリートの連中におなりです。まるでマクベスです。地位と金は人を堕落させることはシェークスピアの昔からの原理原則なのかもしれません。
まぁそれでも3人とも最初は報酬(アメ)とは無縁の「お友達好き」と「ヒッピー」と「オタク」です。ダニエル・ピンクさんのおっしゃることには理があるような気がしますね。でも、それなら3月になると週刊誌が一斉に東大京大の合格者特集記事を組む日本では、けた外れのヒッピーもオタクも出てきそうにありません。 赤間塾からそんなヒッピーとオタクが出るといいなぁ・・・。
(参考文献 Newton2022年4月号P42~43)
今回で「やる気の科学」シリーズは終了です。
最後までお読みいただいてありがとうございます。
次回は「やる気の科学 実戦編」です。心理学をもとに不肖ヤナギが勝手気ままに子供のやる気を無理やり引き出す方法(暴論)を考えます。
乞うご期待!
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