間違いの科学第1巻

ヒューマンエラーはなぜ起こる
さけられない失敗の本質を心理で解き明かす!

間違いの科学第1巻

ヒューマンエラーはなぜ起こる
さけられない失敗の本質を心理で解き明かす!
【重大な事故の背景にあるヒューマンエラー】
1986年アメリカ航空宇宙局(NASA)のスペースシャトルが爆発して宇宙飛行士7人がなくなりました。
ビッグプロジェクト中のビッグプロジェクトのスペースシャトルは手順が実に細かく定められており、リスクについても綿密に検討されていたはずでした。何がいけなかったのでしょう。
後程の調査で明らかになったことは以下のことです。
ある技術者が装置に不具合のある可能性を指摘していました。しかし否定する圧力によって十分検討されなかった。また、チーム全体の方針に反する意見を口にできなかった関係者もいました。
結局、反対意見は無視されて上層部の判断で打ち上げは決定、悲劇は起こりました。
NASAのルールでは問題点や反対意見には全員同意まで議論することになっていたが、そうはなってなかった。
まぁ、バカなお偉方のおかげで・・・というありがちなことですね。しかし、そのお偉方だって、その道の権威者です。どうしてそんなことに・・・。

【恐ろしい認知バイアス(思い込み)】
1986年のチェルノブイリの原子力発電所の爆発。1977年アフリカ沖のカナリア諸島の空港でのジャンボ機同士の衝突では乗客583人が亡くなりました。日本では2005年107人が死亡のJR福知山線の脱線事故。なんといっても東日本大震災の福島第1発電所の原子力発電所の爆発です現在でも多くの方が故郷を奪われています。
ヒューマンエラーについて研究している千葉大学大学院人文科学研究院の一川誠(いちかわまこと)教授は「心理学の観点からいえば、ヒューマンエラーには『認知バイアス』とよばれる心理現象が関係していることが多いと考えられます。」(Newton2022年5月号P91 千葉大学大学院人文科学研究院 一川誠教授)とおっしゃいます。
認知バイアスとは人間の思考や判断などが無意識に陥りやすい。かたよりのある状態のことです。
その思考には一定のパターンがあります。

【認知バイアスとは?】
①確証バイアス
 無意識のうちに自分の考えと合致する情報を選んで取り入れたりすることです。
「あの人は几帳面だからA型だった」と思い込むと「B形で几帳面な人がいたこと」を忘れてしまいます。(ちなみに不肖栁はB型です。いいかげんです・・・)
もちろん賢明な読者の方には、ご案内の通り、科学的には血液型と性格特性は否定されています。しかし、いったん先入観を持つと、補強する情報ばかりが頭に入ります。思い込みが強くなります。
「偏差値70の学校だからいい大学に入る」なんて信用していいんですか?思い出してください、この学校のお子さんは『試験』を通ってお入りなんですよ。確率で考えましょう、数学です。100人中ダントツナンバーワンのお子さんを集めておいて・・・この程度の結果か?とも考えられます。その辺はよくよくお考えいただいたほうがよろしいです。 
「チャレンジャー号の爆発事故では「確証バイアス」が判断に作用したと指摘されています」(Newton2022年5月号P91 千葉大学大学院人文科学研究院 一川誠教授)
装置に不具合が生じる可能性という不都合な情報を「間違っている」と退け、問題はないとする意見を「適切」と判断しました。後から考えれば合理性のない意思決定も、その場の当事者たちは正しいと思っていた。
古代ローマの英雄シーザー(カエサル)曰く「人は見たいものしか見ない・・・」です。耳に痛い意見こそ貴重ですね。不肖栁、肝に銘じます。

②集団思考バイアス
その上、この爆発事故の場合この「集団思考バイアス」もありました。
所属する集団を過信する。そして楽観的になり集団の判断を正しいと考える。異論を唱えるメンバーをを否定するどころか圧力をかけたりすることです。
もう、アルアルですよ。
東○大学の研究発表であるぞ!ひかえおろう!で、東○大学はノーベル賞の受賞では他大学に水をあけられています。日本には国立大学が86校あります。そしてこの86ある国立大学の全予算の約10%を東○大学がかっさらってます。しかし、わがふるさとの雄、京○大学にノーベル賞受賞では大きく水をあけられてます。京○大学のノーベル賞受賞、iPS細胞の山中伸弥教授万歳!
この大”東芝”の取締役会の決定に間違いはなーい!と散々うそぶいておいて、今では海外のハゲタカファンドに戦々恐々です。
はたまた太平洋戦争の真っ最中、大日本帝国陸軍参謀本部の決定は絶対間違いなし、無謬(むびゅう:間違いを犯さないという意味をたいそうに表す言葉です)であるぞよ!でコテンパンにアメリカにやられました。
まぁ枚強にいとまがないというやつですよ。

③正常性バイアス
自然災害などで危険を過小評価して、なかなか逃げようとしないアレです。
確かに日々の異常にいちいち反応していてはらちがあきません。それで、ある程度鈍感になっている方がいい、という面は、なるほどあります。
しかし、東日本大震災や2018年7月の西日本豪雨では逃げ遅れが被害を拡大したと指摘されています。

④ハロー効果
「あの人は高学歴だから人柄も信頼できる」なんて当てにはなりませんよ。当たり前です。しかし、クイズ番組でも東大チームへの注目度は「ハロー効果」だけでアップです。視聴率もアップです。でもねぇ・・・難しい高校、大学出身だから人柄がいいなんて幻想ですよ。お気を付けください。

⑤後知恵バイアス
「そうなると思ってた」と感じるあれです。本当は全然予想してなかったのにこんな風に言います。評論家の方の専売特許です。

【人の直感はあてにならない】
モンティ・ホール問題
アメリカのテレビ番組でこんな娯楽番組がありました。
3つのドアがあります。このドアの一つを番組参加者は指定します。一つのドアは当たりで豪華な賞品を獲得できます。外れるとヤギが出てきます。ここで見ている人は大笑いという趣向です。
番組はこんな風に進みます。
この3つのドアから参加者は一つ選びます。
すると番組司会者がそのドアとは違う2つのドアのうち一つを開けます(司会者はどのドアがあたりか知っています)。すると外れでヤギが出てきます。さぁあとは2つに1つです。司会者は「さぁ、そのままでいいですか、それとも違うドアを選びますか?」と迫ります。日本で、以前に高視聴率を取ったあの番組、みのもんたさんのファイナルアンサー(古い?)ですよ。
ところであなたならどうされますか?
「確率が1/2なら変更して外すと悔しい!このままで勝負だ!」としますか?それとも変更しますか?
「このままで勝負だ!」そうお思いになったあなた、「現状維持バイアス」の罠にかかっていらっしゃいます。
数学の確率で考えましょう。
始めの3枚のドアでは、参加者はその3枚から1枚を選びました。あたりの確率は1/3です。一方選ばなかった2枚のドアを1グループと考えましょう。すると、このグループの当たる確率は2/3です。
この後、司会者はこの1グループのドアの1つを開けてヤギが出ます。それならこの1グループの中で残ったドアのあたりの確率はどうでしょう。
よく考えると元のグループの確率2/3のままです。絶対にこちらの方がおいしいです。
選ぶドアは変更すべきです。確率は2倍よくなります。必死になって「現状維持バイアス」にしがみついてる場合じゃないですよ。
よくよく、ゆっくり考えるとわかりますよね。
「説明を聞けば理解できるようなことでも、とくに短い時間で直感的に判断した場合などでは合理的でない誤りを犯すことが少なくないのです。」(Newton2022年5月号P93 千葉大学大学院人文科学研究院 一川誠教授)
う~ん、さっぱり実生活にはクソの役に立たないといわれる「数学」ですが、学ぶ価値がありそうです。人にだまされないためには「数学」ですね。
ゆめゆめ疑うことなかれ。
上記の「偏差値70の学校だからいい大学に入る」とかも同様の理由(確率的に上位1パーセントの入学者が結局どの大学にどれだけ入ってるか?)であてにならないことがわかります。
ほら「数学」なかなかいいでしょ!赤間塾のヤナギは数学の味方です!! 


【とっさの判断には3つのパターン】 

認知バイアス(思い込み)を引き起こす要因の一つに「ヒューリスティクス」というものがあります。むずかしいですね。まぁ、直感、印象、経験則といった思考や判断のショートカットのようなものです。 

だいたいの場面で、人は限られた情報しか得られないことが多いですよね。時間も限られています。いつでも、じっくり考えてばかりではらちがあきません。掃除機の取説を必死に読んでからやっと掃除し始めていては、お部屋はいつまでもほこりだらけです。 

そこで素早い判断をもたらす心の動きがあります。これが「ヒューリスティクス」です。まぁまぁ、多くの場合、だいたい大外れはしないものです。掃除機のスイッチはだいたいあれだ、ぐらいは見当がつきます。そうめったに壊れはしないでしょう。 

しかし、時にはあまりに非合理的な失敗をやらかすこともあります。 

この「ヒューリティクス」の研究に大きく貢献したのが心理学者・行動経済学者のエイモス・トヴァスキー(1937~1996)さんです。このトヴァスキーさんとダニエル・カーネマンさんらは3つの類型を提示しています。 

オッ!ダニエル・カーネマンさんといえば、ブログ「やる気の科学第3巻」にでてきたお方ですよ。ノーベル経済学賞をおとりの方です。 

ところで、この「ヒューリティクス」には3つの類型があります。 

【ヒューリスティクスのお話】

①「代表性ヒューリティクス」 

物事の代表的な性質によって判断してしまいがちなことです。 

例:「ビールと緑茶が好きなドイツ人」と「緑茶が好きなドイツ人」のどちらがよりありそうでしょうか? 

トヴァスキーさんの類似の実験では「ビールと緑茶が好きなドイツ人」がありそうだとの回答が多かったのです。まぁ、不肖ヤナギもそう思います。なんてたってドイツとビールは切っても切れませんよね。ところが確率の問題として考えると「ビールと緑茶が好きなドイツ人」は「緑茶が好きなドイツ人」の一部(部分集合)です。つまり確率的に「緑茶が好きなドイツ人」よりも「ビールと緑茶が好きなドイツ人」の方が「ありそう」というのは確率的にはあり得ません。「ビールと緑茶が好きなドイツ人」は「緑茶もビールもどちらも好き」という意味です。すると、まぁドイツ人だってお酒に弱い方もいらっしゃるでしょうし、ウイスキーの好きな方もいらっしゃるでしょう。それならば「緑茶が好きなドイツ人」の方が多いはずです。ここらは高校数学Aで出てくる問題です。おもいだされたかたもいらっしゃることでしょう 。下の図をご覧ください。

高校数学Aで出てくるベン図です。緑茶好き」の中に「ビールと緑茶好き」は含まれます。

もしも「まだぴんとこないなぁ」とおっしゃる「代表性ヒューリスティクス」に強力にひきつけられていらっしゃる方、「緑茶とビールが好きな日本人」と「緑茶の好きな日本人」ならどうですか?どちらのほうが多いですか?これならお解りになったでしょう。

トヴァスキー先生曰く。「どうして間違えるかというと私たちは確率ではなく、ステレオタイプ(典型例)で考えて判断してしまうからです。」「ドイツ人はビール」のように「ありそう」で判断しているということです。この現象をとくに「言語錯誤」とよばれます。
①「利用可能性ヒューリティクス」
頭にうかびやすいものごとを高く評価しがちになる現象です。
例:「世界の人口の大きな町を列挙してもらうと、なじみのある大都市ほど人口が大きいと答える傾向になる」(Newton2022年5月号P9)(千葉大学大学院人文科学研究院 一川誠教授)
また、「私の父親はヘビースモーカーで長寿だからタバコが健康に悪いわけではない」といった自分がよく知っていることを中心に判断してしまうことも含まれます。
 
③「係留ヒューリティクス」(アンカリング)
買い物で値段交渉をするときにうちレは最初に本来の価格より高い金額を提示することが多いですよね。書いてはその金額からいくら安いかを考えがちなので、売り手に有利に交渉が進みがちです。これを「アンカリング」ともいいます。
トヴァスキー博士の実際の実験を一つご紹介します。
二つのグループに分けて実験されました。仮にここではAグループとBグループとしましょう。国連加盟国のうちアフリカ諸国は何%ぐらいかとたずねになりました。そして付け加えて。
Aグループには「65%より多いと思うか」とおたずねになりました。
Bグループには「10%より多いと思うか」とおたずねになりました。
その結果はAグループの方が大きな値を答えました。
このように人間はヒューリスティクスから逃れることは困難です。
なぜこのように認知バイアスを生じさせてしまうのでしょう。立ち止まってよく考えれば適切な判断にたどり着くことが多いのに・・・。
その手掛かりはカーネマン博士の提唱した「思考の2重システム」です。
出ました「思考の2重システム」です。

【ノーベル賞の”システム1”と”システム2”】
ブログ「やる気の科学第3巻」で赤間塾のヤナギは下のように書いております。
このノーベル賞受賞の「思考の2重プロセス」とやらを考えてみましょう。なに、ノーベル賞とは言っても何も難しいことを言ってるわけではありません。
人間の思考には2つのパターンがあります。
①「システム1」意識されず、自動的に素早く働きます。
②「システム2」意識のもとに緻密で慎重に働きます。
以上二つが必要に応じて役割分担をします。
システム1には直感や印象、経験則などが含まれ、限られた情報からだいたい適切な判断をします。
えい!やっつけ仕事でさっさとやっちまえ!て感じです。
システム2は時々間違うシステム1をチェックして修正するお役目です。
机の前で深く深く思考をめぐらす哲学者の風情でしょうか・・・。》

【ご先祖様の獲得されたシステム1(ヒューリスティクス)】
人間の歴史ははっきり言ってしまえば、そのほとんどが狩猟採集生活です。
退屈であぶなっかしい農耕文明(干ばつ、冷夏ですぐに飢えが迫ってきます)に頼ることになったのはここ1000年程度のことです。それまでの数百万年間は採っては食って、狩っては食って、でした。そして、か弱い私たちのご先祖さんはいつもライオンやトラ、オオカミのエサでした。ライオンにおそわれたらさっさと行動するシステム1(ヒューリスティクス)を総動員して逃げたものです。システム2でのんびり考えていたら命がいくつあっても足りません。そりゃ多少がけから落ちたりして足をくじいたかもしれません。しかしライオンの晩飯を飾るよりよっぽどましです。システム2で「あっちに逃げときゃよかったなぁ」と考えるのは痛い足をさすりながら安全な場所ですればいいのです。
「ヒューリスティクス」を駆動しているのがシステム1で、熟考が必要な時に登場するのがシステム2だと考えられています」(Newton2022年5月号P94千葉大学大学院人文科学研究院 一川誠教授)
(参考文献 Newton2022年5月号P90~95)