やる気の科学 第2巻
恐ろしいアンダーマイニング効果
「とにかくほめろ!」は大間違い!!!
やる気の科学 第2巻
【報酬(アメ)でやる気はアゲアゲ?】
それでは、内発動機づけと報酬(外発的動機づけ)を組み合わせると、どうなるでしょうか。もともとやる気を持っている子供にさらに報酬を与えるといかがでしょうか。
普通に考えると、やる気のある子にさらにごほうび(アメ)を与えるのだから鬼に金棒です。アゲアゲです。ものすごくモチベーションが上がるはずです。
【ルービックキューブでやる気を実験!】
答えを示す研究があります。アメリカの心理学者エドワード・デジさんが1971年に実験の結果を論文にまとめておいでです。24人の参加者をグループAとグループBに分けて、そのころはやりの立体パズルに取り組んでもらいました。
この立体パズル、いわゆるルービックキューブですね。このルービックキューブ、「頭がよくなる!」のテレビ宣伝がありました。
外人さんのえらい大学教授とやらがたいそうな身振り手振りでおすすめされていました。そのせいもあって日本中で大はやりでした。
しかしこのルービックキューブ、結構なお値段でしたので、貧乏な我が家では小学生の私に買い与えるはずもありません。
たまに登校すると、教室でみんながやっているのを指をくわえて見るばかりです。たまに貸してもらってやっても超絶に難しくて友達から笑われていました。
さすがにPTAから苦情が来た様子で、そのうち学校に持ち込み禁止になりホッとしたものです。
私の思い出話はともかく、肝心の実験の内容ですが、パズルに取り組む時間は30分間。
8分間の自由時間をはさんで再びパズルを30分間やってもらいます。
8分間の自由時間内にはパズルをやってもやらなくてもよいとしました。
実験に取り組むお部屋には雑誌などもあってパズル以外にも退屈しのぎはあります。この実験を3日間やってもらいました。
結果は下のイラストをご参照ください。
1日目 、大学生24人を集めて立体パズル(ルービックキューブ)をやってもらう
Aグループ
1日目は自由時間8分(480秒)のうち
平均248秒パズルに取り組んだ
Bグループ
1日目は自由時間8分(480秒)のうち
平均213.9秒取り組んだ
2日目 、Aグループには「一つパズルを解くと1ドル報酬(アメ)をあたえる」
Aグループ
「一つパズルを解くと1ドル」の報酬あり,
480秒の自由時間のうち313.9秒パズルをやった。
金の力は偉大です!
Bグループ
何にも報酬(アメ)はありません。のんびり205.7秒パズルをやった。
3日目、Aグループに「今日は報酬(アメ)はないよ」と伝えた。
Aグループ
金をもらえなくなったら、自由時間480秒中平均198.5秒パズルをやった。
「金の切れ目が縁の切れ目、同情するなら金をくれ!」
Bグループ
何にも報酬はありません。
それでもがんばって自由時間480秒中241.8秒パズルをやった。
報酬(アメ)がなくてもがんばります!
【報酬(アメ)でやる気は出た!】
1日目はAグループ、Bグループともにただパズルに取り組んでもらうようにしました。
2日目はAグループにはパズルを一つ完成するごとに1ドルの報酬を与えると告げました。(アメです!)Bグループには報酬なしです。
3日目はAグループ、Bグループともに報酬なし(どちらもアメなし)でパズルをやってもらいました。
デシ教授は参加者がどれくらい8分間の自由時間にパズルをやるかによってモチベーションの大きさがわかるとお考えでした。さぁAグループとBグループの取り組む時間に違いはあったでしょうか!
その結果は大変面白いものです。Aグループでは1日目よりも金がかった2日目のほうが長くなりました。(やっぱり!)
【金の切れ目がやる気の切れ目…】
しかし、3日目に報酬(アメ)がなくなったことを伝えると、自由時間にパズルをやる時間はなんと報酬のなかった1日目よりも短くなったのです。報酬(アメ)がないのは同じです。しかし1日目よりも3日目はモチベーションがガクンと落ちてしまいました。
「この研究は当時のセンセーションを巻き起こしました」(Newton2022年4月号P)(慶応大学 鹿毛雅治教授)
一旦報酬(アメ)をもらった参加者はそのあと報酬(アメ)がなくなると当初よりもモチベーションが下がってしまったのです。
もともと、参加者たちは立体パズル(ルービックキューブ)好きです。つまりパズルへの「内発的動機づけ」があったので、そのモチベーションで実験に取り組んだはずです。そこに報酬(アメ)が与えられると「報酬(アメ)のためにやってる(やりたいからやると決めたのではなく、やらされている)という感覚が起こってしまって、せっかくの「内発的動機づけ」が「外発的動機づけ(報酬もらってやらされている」に変わってしまったのですね。そんな風に考えられます。このように報酬(アメ)によってかえってモチベーションを低下させる現象のことを「アンダーマイニング効果」とよばれます。
【おそろしいアンダーマイニング効果】
ちなみにデシ教授の実験ではもう一つの設定で実験が行われました。その実験では金銭の代わりに「他の人より良くできました」という”ほめ言葉”という報酬(アメ)を与えました。この結果ではアンダーマイニング効果は生じなかったそうです。
つまり、報酬(アメ)といっても金銭と言葉では与える影響が異なるということです。
お子さんには「小遣いをやる、値上げする。」「ゲームを買ってやる。」では効果はすぐになくなるということが言えそうです。やっぱり「金の切れ目が縁の切れ目」ですね。しつけの効果も考えるとこれは禁じ手のようです。
【報酬(アメ)の予告はやる気がなくなる】
1973年にアメリカの心理学者、マーク・レッパーらが発表した幼稚園児を対象にした研究でも同じような結果が得られました。
お絵描きの好きな幼稚園児たちに名前入りの賞状という報酬(アメ)を与えることにしました。
Aグループには事前に「ごほうびをあげる」と予告して賞状を与えました。
Bグループには事前に予告しないで、お絵描きが終わって賞状を与えました。
結果はAグループだけにアンダーマイニング効果があらわれました。
「この結果から、課題に取り組む前に報酬を予告するか否かが大きな意味を持つといえるでしょう」(Newton2022年4月号P38)(慶応大学教授鹿毛正弘教授)
【成績順でやる気はなくなる】
さらに、その後の様々な研究で、金銭や物品といった報酬(アメ)だけではなく、他者の評価や外部からの監視や、締切期限の設定といった条件下においてもアンダーマイニング効果が報告されています。
こうして考えてみると、成績表を廊下の張り出しなんて、昭和にはやってましたが、効果は疑問ですね。また、よく学校で成績順を発表したりしますが、いかがでしょう?もちろん現在でも似たようなことをこそこそと手を変え品を変えやってますね。その時限り、短期間には効果がでても、これはカンフル剤打ちまくってるのに近いものですね。アンダーマイニング効果、不肖栁、肝に銘じます。
【テストの連発はやる気をけずる】
これまでのモチベーションの研究では、他にも様々なマイナス面が示されてます。報酬(アメ)を得ることが目的になると手抜きや不正行為を誘発するおそれがあり、求められた以上には努力しない傾向につながりやすい。すでにある報酬(アメ)がなくなるとモチベーションが低下する(アンダーマイニング効果)ので、一旦設定するとやめるのがむずかしいという問題もあります。
これは恐ろしい研究です。テストを短い期間に何度もやる。成績、点数を突き付ける。少なくとも保護者に知らせる。(下った成績を保護者に知られるのは子供にとって何より恐ろしいものです)
成績欲しさにカンニングなどの不正行為ならましな方です。自分より上位の者はもちろん、成績の近い者に対するいやがらせ、いじめにつながりそうです。せっかくいい成績をとっても、次のテストで相対的に成績が下がる可能性があるのなら、もうこんなところでやめておこう、と考えることもあり得ます(営業マンが今月のノルマは達成したから喫茶店でふけるパターンです。来年のノルマがきつくなるのは困りますから)。
【ああ、覚せい剤の打ちまくり・・・】
何より一旦成績が下降傾向になれば、もうモチベーションはガタ落ちです。最近大学入試でスマホを使った不正行為が頻発してますね。替え玉受験なんて昔からあります。それに東京大学の受験会場前でナイフを持った少年が複数の受験生を刺した事件もありました。この加害者の場合「東京大学Ⅲ類(医学部)に入れない自分は破滅だ!」と言っていたと記憶しております。
これでは「カンフル剤の打ちまくり」ではなく、「覚せい剤の打ちまくり」です!アンダーマイニング効果を掘って掘って掘りまくりです(アンダーマイニングとは鉱山の穴掘りのことです)。
「報酬を与えることは課題となる行動そのものに喜びを感じさせる効果がないと考えられています」(Newton2022年4月号P38)(慶応大学教授鹿毛正弘教授)
つまり、高い報酬(アメ)をもらってもいやなことはいやなのです。
学習は興味を持ってもらって、好きになってもらわないと結局ダメなんですね。不肖赤間塾のヤナギも自戒します。
(参照Newton2022年4月号P37,38)