やる気の科学 第3巻
具体的な目標はやる気のもと
習慣が大事
やる気の科学 第3巻
【やる気はいつも三日坊主】
「子供たちはを含め人は自分のことは自分で決めたい」ものです。自分で意義のある目標を決定することは「内発的動機づけ」につながります。
とはいえ目標をたててもなかなか始められないものです。始めてもすぐに挫折なんてよくあることです。
アメリカの有名な作家マーク・トウェインは立派なお言葉を残していらっしゃいます。「禁煙なんて簡単なものだ、私なんか百回もやった」
私も巨匠に負けていません。「目標を立てるのなんて簡単なものだ、私なんか千回も立てた。」百回対千回。私の勝ちです。
まぁ皆様、この点については、身に覚えがあることでしょう。「三日坊主」「来年の事を言えば鬼が笑う」という古いことわざもあることです。
勉強のきっかけはほとんどの場合「外発的動機づけ」です。
学校や親から、そして塾のおっさんからやらされるのです。
それでも、やはり何らかの目標はあったほうがいいのは間違いありません。
それではどのような目標の立て方が効果的なのでしょうか。
【目標の心理実験】
アメリカで活躍した心理学者アルバート・パンデューラ(1925~2021)らは1981年、目標の立て方によって課題の達成度に違いが出ることを示す論文を発表しました。
算数の苦手な7~10歳の子供たち約40人を3グループに分けました。この3グループをAグループ、Bグループ、Cグループとしましょう。これらのグループに7日間で42ページの算数の問題集をやる課題を与えました。
①Aグループ、には「1日6ページずつやりましょう」
②Bグループ、には「7日間で42ページやりましょう」
③Cグループ、には「できるだけたくさんやりましょう」
7日後、各グループのメンバーがどれだけ問題集をやったのか調べてみました。
①Aグループでは74パーセント、②Bグループでは55パーセント、③Cグループでは53パーセントでした。
やはり「毎日少しずつ宿題をやりましょうね」が有効ですね。
この結果は「近傍目標」と言われ、小さい具体的な目標を示すことです。こういう目標に対してモチベーションが向上して最終的に課題を達成できる割合が増えることがわかります。
「大きく遠い目標は遠隔目標と言われ、最終的なゴールを示すためには大切ですが、それだけでは十分にモチベーションを向上できないことがわかります。」 (Newton2022年4月号P39)(慶応大学教授鹿毛正弘教授)
【目標はなるべく小さく、近く】
それでは、なぜ小さく具体的な「近傍目標」がいいのでしょうか?
「それはできる」という自信を持ちやすいからです。このような気持ちは「自己効力」とよばれ、モチベーションが生じるために絶対に必要なものと言われています。
「自己効力はモチベーションに関する最も重要な概念の一つだといえます」(Newton2022年4月号P39)(慶応大学教授鹿毛正弘教授)
「近傍目標」は、いつ何をやればいいのかはっきりしていて、ひとつやるたびに達成感を持ちます。
「それはできる」という自信が生まれて「自己効力」を持ってモチベーションが生まれるわけですね。
「これまでの研究によると、自己効力に影響を与える4つの要素があり、それらをうまく利用すればモチベーションを高めることができます」(Newton2022年4月号P39)(慶応大学教授鹿毛正弘教授)
いよいよ核心ですよ!自己効力を上げる4要素です。
【やる気がみなぎる4要素】
①「達成体験」
これが最も重要です。みずからの成功体験です。自分でうまくいったことの記憶ですね。
私の経験では小中学生の学習には、これに尽きると感じます。
②「代理体験」
他者の成功体験を観察することです。これは自分と似た立場の人の成功体験程効果が大きいといわれます。
よく「こうすれば、東大にいける!」「TOEIC700点のとり方」的な本が麗々しく書店で平積みで売っていたりしますね。
今ちょっと大赤字で苦しんではいますがソフトバンク会長の孫正義さん、この方の講演会に高い料金を払って雑誌PRESIDENTを小脇に抱えたスーツ姿のお人が押しかける景色があります。
③「言語的説得」
誰かからの励ましですね。「おれはできる!」などの自己暗示も含みます。
「ほめて、ほめて、ほめまくり!」がこれになるでしょうか。
勉強について考えると、ほめ方にコツがありますし、逆効果になる場合があるように思われます。
どちらかというと自己暗示にかけるようにすると効果があります。しかし、これにはほめ方の高いスキルが必要です。
また私見ですが、原始的宗教もほとんどの要素がこの「言語的説得」のような気がします。何度も何度も同じ言葉を唱えることで自己暗示を自分にかけるのですね。
このへんは「やる気の科学実戦編」でも触れています。
④「生理的喚起」
心身の状態が与える影響のことです。緊張でうまくいかない。不安になってしまう。
つまり受験会場で心臓がバクバクで「こりゃ、だめだ!」状態ですね。
こんなことで自己効力が低下します。
しかしプレッシャーに弱い赤間塾のヤナギなんか「心臓バクバク」はしょっちゅうですよ。
この4つの自己効力の考え方は勉強やスポーツの他、禁煙やダイエット、対人恐怖症、高所恐怖症などの治療まで広い分野で実際に応用されております。
【赤間塾ではテストはやらない!!!】
先ほど申し上げましたが、塾のおっさんの赤間塾のヤナギとしては①の「達成体験」につきますね。1に「達成体験」2に「達成体験」3,4がなくて5に「達成体験」ですよ。
小さな成功、とにかく学校の定期テストで点を取らせることです。
塾のテストの点なんかだめですよ。
あんなものは塾生にとりあえずいい点を取らせてやめさせない、塾の経営安定のための道具です。それにテストの時間は講師に給料を払いません。その時間も塾代は保護者からとってますから丸儲けです。
そんなことは子供たちは見抜いてます。見抜けないのは保護者の方たちだけですよ。
いい結果なら子供たちはとりあえず、なんでも親に見せときますから。
親御さんは「塾の成績がいい!」と喜びますが、ムダです。
よく「塾の成績はいいのに学校の成績がいまいち」なんておっしゃる方がいますが当たり前です。
赤間塾では一切テストはやりません!!!
ひたすら教えます!!!
【習慣は立派なやる気】
エ?習慣がやる気(モチベーション)?そう思った方、あなたは正しい。これはごく最近の心理学の研究で出てきたものです。
私たちは朝起きて、布団を出て、顔を洗って、歯を磨いて、着替えて、トーストと牛乳と野菜ジュースを口に突っ込んで(私のパターンです)(ご飯にみそ汁の方もいらっしゃいます、サザエさんではこういううるわしい昭和の描写がありますね)、靴を履いて出ていきます。
別にやる気を意識する方はいませんよね。これは習慣だからです。
やる気と根性で靴ひもを結ぶ人はまぁめったにいません。
私たちの生活の大部分は別にやる気をだしてやってるわけではありません。只々習慣でやってるだけです。
「そういった意識されることのない習慣もモチベーションの一つなのです」(Newton2022年4月号P39)(慶応大学教授鹿毛正弘教授)
【習慣にはアメもムチもいらない】
朝のこういったいわゆるルーティンと呼ばれるものには別に報酬(アメ)も罰(ムチ)もありません。
しかしですね、行動を起こしている以上そこにモチベーションは存在します。
「このプロセスは潜在的モチベーションと呼ばれています」(Newton2022年4月号P39)(慶応大学教授鹿毛正弘教授)
【朝のルーティンだって立派なやる気】
朝のルーティンだって初めはあれこれ手順を考えて行ってたはずです。
思い出してください幼稚園生のころを。
朝、布団から起きて、歯を磨いて、幼稚園の制服のボタンをはめて着替えることが苦痛じゃなかったですか、やる気が必要ではなかったですか?
(私は今でも冬の布団を出るのは苦痛です・・・やる気出してもしんどいです)
しかし、何度もやってるうちに手順をいちいち考えずにさっさと行動できるようになります。
別に必死に「やる気!」を出さなくてもいいです。
【習慣にするまで・・・ああ、たいへん・・・】
どうですか?引っ越したり、新しい学校に通うようになるとやたらと疲れますよね。
忘れ物が増えて、手順や道順を間違えたりします。
「やる気」が必要ですね。そのうちモチベーションが下ってしまいそうです。
実際に「5月病」という言葉もあります。「習慣」も作るまでがたいへんです。
ということで、小学生から中学生になると生活がガラッと変わります。
制服を着てランドセルではなくカバンを抱えて玄関を出ます。
行く学校も違います。大体が遠くなります、場合によっては電車やバス通学です。
行けば行ったで見慣れない連中もいます。変な教師が出てきます。変な授業をします。
これは疲れますよ。(もちろん変じゃない場合もあります)
【赤間塾は1年生がおすすめ】
塾には1年生からいくべきですね。
ここで小さな成功体験を積んで「達成体験」を得て「近傍目標」をたっぷり抱えて行けば、不慣れな新しい学校にいわゆる「上から目線」で臨めます。
赤間塾の宣伝臭いですが、これは本当のことです。
「塾は3年生からでいいわ」はあまりお勧めできません。
受験直前に「モチベーション」を出して何か別のことをやりだすのはきついんですよ。
受験というプレッシャーの上に学校が終わった後、もう一つ別の不慣れな学校に行くようなものです。
塾へ行くのだって、習慣化しておいた方がいいに決まってます。
【ノーベル賞をとってます】
実はこうした考え方(習慣もモチベーションのうち)は、2002年にノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者ダニエル・カーネマンが提唱した「思考の2重プロセス」の理論にのっとっています。
ノーベル賞ですよ、ノーベル賞。ああ、権威に弱い不肖赤間塾のヤナギです。
それでは、早速このノーベル賞受賞の「思考の2重プロセス」とやらを考えてみましょう。なに、ノーベル賞とは言っても何も難しいことを言ってるわけではありません。(思考の2重プロセスについては「間違いの科学第1巻」でも触れてます)
人間の思考には2つのパターンがあります。
①「システム1」意識されず、自動的に素早く働きます。
②「システム2」意識のもとに緻密で慎重に働きます。
以上二つが必要に応じて役割分担をします。
これだけです。
システム1には直感や印象、経験則などが含まれ、限られた情報からだいたい適切な判断をします。
えい!やっつけ仕事でさっさとやっちまえ!て感じです。
システム2は時々間違うシステム1をチェックして修正するお役目です。
机の前で深く深く思考をめぐらす哲学者の風情でしょうか・・・。
う~ん赤間塾の栁は、ほとんどシステム1で生きてる気がします。あなたはどうですか?
【さっさとやることも大事】
それでは、なんでまた、こんな2つのシステムが脳みその中にできたかといいますと、毎日の生活でいちいち全部「う~ん、う~ん」と哲学しながら緻密に考えてばかりいたのではらちがあきません。時間と労力、手間がかかりすぎます。
【まじめに人類史を考える】
現在の文明社会ではシステム2が主流ですね。勉強なんてシステム2ばかりを使う練習です。
しかし、私たちが文明生活(文明とは一般に農業を指します)を始めたのは、たかだか約1万年前と言われてます。たったの1万年前ですよ。
文明は今のイラクあたりが発祥の地と言われてます。メソポタミア文明ですね。
私たち日本人が文明とやらを始めたのが諸説ありますが、縄文時代終期の約2500年前ぐらいでしょうか。
ここで考えてみてください、我々人類がチンパンジーと枝分かれしたのが約500万年前。
つまり、もうほとんど500万年間ずっと文明(農業)なんか縁もゆかりもない狩猟採集生活を送ってきたのですよ。
【ライオンのエサよりましだ!!!】
この500万年間、あっちこっちからライオンやハイエナ、オオカミが襲ってきます。
「今日は栁が食べられた、明日は幸男が食われちまった!」が日常のことです。
「野生の王国」(ちょっと古いか・・・)、「ダーウインが来た」、「ジャングル大帝」、「ライオンキング」の世界です。
そんな中でいちいちシステム2を使って「う~ん、う~ン」なんて、ゆうちょうな哲学なんてことをやってたら、たちまちライオンとハイエナとオオカミのエサです。
「ワ!逃げろ!」とばかりにシステム1を使って一目散に走り出したご先祖様が生き残ります。
ありがたい、ありがたいご先祖様です。
そりゃ、走って、走ってドブにはまったり、がけから落ちて足を痛めることもあったでしょう。「ああ、あっちに逃げればよかったなぁ・・・」
しかしそれは、安全な場所でゆっくりシステム2で修正すればいいのです。
そうしてわれわれのご先祖様は生き残ってきたのです。
ゆめゆめシステム1(ワ!逃げろ!)をバカにしてはいけませんぞ。
【習慣(システム1)は意識されない「やる気」】
閑話休題。ところでモチベーションに戻りましょう。
そんなこんなで、朝のルーティンのような行動にいちいちやる気をだしていては身が持ちません。そこで習慣として意識しないでやってるわけですね。
例のノーベル賞受賞者のカーネマン先生によると目標、報酬(アメ)、罰(ムチ)といった仕組みが介在するモチベーションはシステム2。意識されない習慣である潜在的モチベーションはシステム1に基づくということです。
【心も習慣で決まる!】
「行動だけでなく、心の在り方にも同様の仕組みがあると考えられています」(Newton2022年4月号P40)(慶応大学教授鹿毛正弘教授)
なんと、なんと心にも習慣があるのだ!
どのようなことに注意を向けるか、信じやすいか疑り深いか、人それぞれ”くせ”を持っています。この心の習慣もパターンを繰り返すことで習慣になった結果ということです。
これって性格に近いような・・・
【態度も習慣で決まる!】
ちなみに「態度」という概念もモチベーション研究テーマです。態度とはある対象についての「好き」「嫌い」といった評価であり、その対象にかかわるモチベーションに影響を与えます。態度にもシステム1に由来する意識されない側面があるといいます。これを「潜在的態度」と呼ばれています。
そういえば、会ったとたんに、イヤーな態度の奴っていますよね。高慢ちきな奴。いやみな奴。赤間塾のヤナギはどうだろうか?これは気を付けなければいけませんね。
(参考文献 Newton2022年4月号P37~40)