間違いの科学第2巻

「偽りの記憶」に気をつけろ


【損は得より重く感じるプロスペクト理論】 

やはりトヴァスキー博士とカーネマン博士の代表的な研究で「プロスペクト理論」があります。 

人間は利益を得るより損失を避けたいという「損失回避バイアス」が強くはたらくのですね。簡単に言うと 「10万円儲かってもそんなにありがたくないのに1万円の損はキツイ」ということです。 

またこういう効果もあります。 

「100万円儲かるのと10万円儲かるのは大して変わらない。1万円の損と5万円の損はものすごく違う。」ということです。 

そして実は、私もそんな風に感じます。これは私がケチだからと思ってましたが、さにあらず行動経済学で証明されていたんですね。赤間塾のヤナギのケチはドヴァスキー博士とカーネマン博士に見破られてました。 

こうした研究をもとに2人の博士は経済学に心理学を取り入れた行動経済学を確立されました。
かつて人間の経済的判断は合理的と考えられていましたが現実には全然そうなってませんでした。
何度も申し上げておりますがそれらの業績の評価でカーネマン博士はめでたく2002年のノーベル経済学賞をおとりになりました。 

え?トヴァスキー教授は?
博士は別にノーベル賞選考委員会に嫌われていたわけでも、スエーデン人に人気がないのでもありません。
1996年にお亡くなりになっていたので残念ながら未受賞になってしまいました。
ノーベル賞は生きてる人にしか受賞の権利がないのですよ。
長生きはするものですね。 

 

【偽りの記憶 】

何やら映画のタイトルのようですが、別にロマンもスペクタクルもスリルもありません。 

いくらシステム2をはたらかせて沈思黙考したとしても、やっぱり間違いは起こる、という身もふたもないお話です。 

なぜかというと判断のよりどころである「記憶」にも間違いがたびたび起こるからです。 

「過去の事実についての記憶が後から追加された情報で改変されたり、まったく存在しなかった出来事の記憶が作り出されたりすることは、実は珍しくありません」(Newton2022年5月号P95 千葉大学大学院人文科学研究院 一川誠教授) 

物忘れや記憶違いは誰にでもあることです。
赤間塾のヤナギはしょっちゅうです。
しかし、交通事故のような印象の強い場面でも記憶が間違ってることはあるといいます。 

心理学者のエリザベス・ロスタフさんたちは実験の参加者たちを複数のグループに分けました。そして自動車同士がぶつかる映像を見せました。 

あるグループには「どのくらいの速度で当たった(hit)したかと思うか?」とたずねました。 

別のグループにはどのくらいの速度で激突(smash)したかと思うか?」とたずねました。 

すると「激突(smash)」と聞かれたほうが速いスピードを答える傾向がありました。「あたった(hit)」と「激突した(smash)の言葉の違いが記憶に影響を与えたと考えられます。警察の調書や裁判の尋問でも起こりそうですね。 

さらに1週間後に事故の場面を思い出してもらいます。 

「車のガラスが割れるところを見たか?」と確認したところ「当たった(hit)」の組では 50人中7人が「見た」と答えたのに対し「激突(smash)」組では50人中16人が「見た」と答えました。 

実際にはガラスは割れていません。
見ていない記憶が作り出されたのでした。 


【さまざまな虚記憶】
また、別の実験では夢の記憶を語ってもらい、それを「あなたが小さいころいじめられた記憶または迷子になった記憶を意味する」と伝えると、その実験参加者はそのエピソードを事実だと思い込み、体験として詳しく語った人もいたという。 

こうした記憶は「虚記憶」と呼ばれます。 

「虚記憶は非常に詳細で生々しく感じられることもあります。つまり、自分では間違いないと確信している記憶でも事実とは限らないのです」(Newton2022年5月号P95 千葉大学大学院人文科学研究院 一川誠教授) 

母親の胎内の記憶がある、といったところも虚記憶と言えるでしょう。あとから、刷り込まれたんですね。 

もっとよくあるのが、「宇宙人に誘拐された」です。その証言の宇宙人の姿のほとんど全部が私たちの思い浮かべる頭でっかちで、大きな目玉、手足の細いあれです。
円盤に乗ってきます。円盤のデザインも例のアダムスキー型です。「本物の宇宙人こそ、このデザインや!!だからみんな同じのを見てるんや!!」と強弁してもいいのですが・・・まぁ後からの刷り込みですよ。 

なるほど「虚記憶」まずいですね。

【虚記憶は学習に使えるぞ!】
しかし、逆に使えます。赤間塾の指導としてはこのエピソードで英単語や数学の公式を覚えてもらうことに力を入れています。
エピソードとイメージを連鎖させて覚えてもらう方法です。
これで強力な虚記憶ならぬ「学習記憶」を作ります。具体的なイメージは虚記憶を作るぐらいに強力なのですから、これを使わないのはもったいないじゃないですか!。
どんな手を使っても受験に勝てばいいのですよ!赤間塾のヤナギはそう考えます。 
かつて「宇宙戦士ガンダム」でギレン総帥はおっしゃいました「勝てばいいのですよ、勝てば!」
さすがギレン総帥!いいことおっしゃいますね。


【感情も間違いを引き起こす】 

釣り橋で出会った異性を好きになりやすいといった実験があります。「釣り橋が怖くて」のドキドキと、好きな人一緒にいるトキメキ(ドキドキ)を間違えてしまうんですね。これを「釣り橋効果」とよびます。これもたいへん有名な実験です。
あなたも彼女をデートに誘うなら釣り橋がおすすめというわけです。 

また、こんな実験もあります。 

心理学者のフリッツ・ストラックらの実施したものです。 

Aグループにペンを歯ではさんでもらいました。そうすると口角が上がって笑ったような表情になります。 

Bグループにはくちびるでペンをはさんでもらいました。すると口を尖らせたような不満そうな表情になります。 

この状態のまま両グループにマンガを読んでもらいます。するとBグループの方がマンガが面白いとこたえる人の割合が大きくなります。顔の表情が感情をに影響するのですね。 

また、会話でも片方が笑顔になると、もう片方も笑顔になりやすく、そうすると好意的に感情の好循環が生まれます。
「笑顔千両」、まさに「笑う門には福が来る」です。 

まだあります。手を下から上に動かすとポジティブになります\(^o^)/。まじです。
スマートホンのスワイプする動きにもこの動きが多く、「影響がある」との指摘もあります。 

このように記憶や感情も実は正確ではありません。 

「心理学の実験では、研究者でも『人間の記憶はこんなことも間違うのか』とおどろくことが少なくありません。私たちは自分で思っているほど合理的でも正確でもないのです」(Newton2022年5月号P96)(千葉大学大学院人文科学研究院 一川誠教授) 


【笑う門には福(合格)来たる!】
これも使えます!
入試直前の受験勉強にいそしむ受験生は、つとめて笑いましょう。
過去問を多少間違えても気楽に前向きにいきましょう。
かまわないじゃありませんか!しょせん過去問です。「現在問」ではないのです。
そんなことより笑顔です。ご家族の方も「笑顔」「笑顔」です。楽しい話題で盛り上がりましょう。
家じゅうで「静かに、静かに!し―!」は逆効果です。
「ええじゃないか!」と明るくいきましょう。 

赤間塾でもこの方法を積極的に使ってます「笑顔」「笑顔」の授業ですよ。
暗い授業では覚えることも覚えません。
「笑顔」でセレトニン(赤ちゃんをあやす時にお母さんの脳に現れる脳内ホルモンです。恋人と一緒でも出ますよ)を出して、明るく記憶の定着です。
赤間塾のヤナギはそう考えます。 


【間違いだらけのおかげで人類は厳しい生存競争に打ち勝ったのだ!はぁ?】 

「人間は間違いだらけではないか!」とお怒りのあなた!ごもっとも、ごもっとも・・・しかし、実は・・・。 


「意外かもしれませんが、そもそも人間は他の動物と比べて間違うことが多い生き物なのです」(Newton2022年5月号P96)(千葉大学大学院人文科学研究院 一川誠教授) 


考えてみればこの「間違いやすさ」は進化の過程で役に立ったはずです。進化の過程では役に立たない、余計なものはどんどん捨て去ります。
私たち人類はしっぽもなくなりました。「けもの」のお印の大切な毛もなくなりました。頭とか変なところだけ残ってます。
だいたい強力な武器だった爪なんて平べったくなって意味が解りません。少しは猫を見習ったらどうかと思います。(本当は平べったい爪は物を持った時に指先が圧力を感じるのに大変役に立っています。つまり指先の繊細な感覚は平べったい爪のおかげです)
牙だってそうです。言い訳がましく一応「犬歯」などと名前がついてはいますが、イヌが笑います。
実際は「糸切り歯」の名前があらわすように、せいぜいお裁縫にしか役に立ちません。

それでは「間違えやすさ」が体を温めてくれる毛や武器になる鋭い爪や牙よりも役に立つのでしょうか?

【間違いやすさ\(^o^)/】
実は役に立つのです。とにかく、進化の過程でしっかり残ってるということは少なくとも今まで「役にたっていた!」はずです。
それが進化のルールというものです。 

「なぜなら、私たち人間の肉体や精神が持っている様々な能力は、長い進化の過程に適応して獲得したものであり、生存に必要なことを身につけてきたといえます。これまで言及したいろいろの心のしくみも、また進化の産物であり、本来それらは生存に有利なものであるはずです。」(Newton2022年5月号P97) 


何度も申し上げた通り、ライオンに襲われているのに、「さて、どうしたものか・・・」なんて、のんびり考えている連中はみんなライオンの食卓を飾ることになりました。
ヒューリスティクス全開で「ワ~!!」と逃げた連中が生き残ったのです。
そりゃ、逃げる途中でがけから落ちることもあったでしょう。切り株をけり上げてつま先がまっかっかになったこともあったでしょう。
しかしライオンのエサより100万倍ましです。
逃げ込んだ安全な洞窟で痛い足をさすりながら「ああ、次はあっちに逃げよう・・・」とゆっくり考えればいいのです。
この方たちが、われわれのありがたいご先祖様になったのです。
われわれは「ワ~!」とさけんで逃げる子孫なのです。
そうやって進化のきびしい生き残り競争(サバイバルレース)に打ち勝ってきたのです。 


【ご先祖様は生き残ったが・・・それで原発爆発じゃぁ・・・】 

そりゃそうだよ。でも、現在、その「ワ~!」で飛行機が落ちたり、スペースシャトルが燃えたり、原子力発電所が爆発したりして、困るじゃないか・・・。 


本当にそうですね・・・。 

それでは、ここで少々ベクトルを変えてみましょう。 

考えてみると、他の動物と違って人間だけは文明を持っています。

文明、つまり農耕が始まったのはたったの1万年前です。おそらく現在のイラク、メソポタミア地方が起源といわれております。
日本だと、おそらく縄文時代終期の3千年ほど前です。
チンパンジーと人間が枝分かれしたのが約500万年前。
500万年から比べると1万年や3千年なんて一瞬です。
500万年を一年間と考えてみましょう。
するとメソポタミア地方で文明が起こったのは12月31日大晦日の午前7時頃です。ご家族全員で朝ご飯を食べて大掃除の準備です。
日本で文明が起こったのは午後7時くらいです。紅白歌合戦が始まってます。紅組、白組の点数の1回目の発表がある頃でしょう。
いそがしくされていたお母さん方がやっとゆっくりできる頃でしょうか。さぁ、もうすぐ年越しそばです。
つまり、文明が起こってからまたたく間にクワから耕運機、コンバイン。徒歩から馬、自動車、飛行機、ロケットで火星です。
石の矢じりの弓矢から、爆撃機にミサイル、そして核兵器です。
あげくの果てに、二酸化炭素を出しまくって地球の気候を変えてしまうぐらいにすごいことになってるわけです。
本当に目がくらむくらいのスピードです。バンバン変化しています。 

考えてもみてください、あなたの親御さんの世代と現在を考えてもかなり異質な世界に暮らしているとはお思いになりませんか?
おじいさん、おばあさんの世代なら、まさに浦島太郎です。 


「私たち人間は生物として適応した環境とは異なる生活を送っており、進化の過程で出会ったことのない未知の状況にしばしば直面します。すると必然的にこころのしくみと環境とのミスマッチが生じ、間違いをおかしてしまいやすいのです。」(Newton2022年5月号P97)(千葉大学大学院人文科学研究院 一川誠教授) 


たしかに人間はヒューリスティクスによって合理的でない思考におちいりやすい。
しかしライオンからひたすら逃げ回っていた長い長い期間に合理的な考えがどれほど役に立つ場面があったでしょうか。
それよりも情報の少ない中で、素早く判断する方が生存に有利だったはずです。
「ライオンが出た。ワ~!と逃げろ!」の方が正しい。多少の間違いがあっても直感的に考えることで環境に適応してきたのです。
ヒューリスティクスはこうして心のしくみに組み込まれていったのですね。約500万年間は致命的間違いを犯すことがあまりなかった。
しかし、その心のしくみは、急激な文明の変化についていくことができないわけです。
その結果、現代社会という環境では少しの間違いが深刻な結果になってしまうことがあるわけです。
これが現在「ヒューマンエラー」と呼ばれるものです。 


【ヒューマンエラーを防ぐにはどうしたらいいの?】 

「まずは人間の心のしくみを理解し、どのような間違いをおかしやすいのかを知ることが大切でしょう」(Newton2022年5月号P98)(千葉大学大学院人文科学研究院 一川誠教授) 

「そのように自分の認知のあり方をみずから認知することを「メタ認知」とよびます。」・・・う~ん、むずかしいですね。「ああ、俺ってこんなふうに考えやすいんやなぁ・・・俺ってやつは・・・」といったところでしょうか。 

それでは、人間の不得意なところは機械に任せるのが吉とはいえます。サッカーや野球、バレーボールのビデオ判定なんかでは人間より機械のほうが優れてますね。車の自動運転もまもなくヒューマンエラーの低減に役立つでしょう。 

逆に認知バイアスを利用することも有効ですね。災害が起こりそうなときには「住民の80パーセントが逃げました!」と発表したり。大勢が逃げてるようすの映像を流すと「同調バイアス」が働いて「わぁ!逃げなきゃ!」となります。 

あの恐ろしい東日本大震災の津波を思い出しましょう。宗像市も海沿いの土地や釣川沿いは低地で川の勾配もほとんどありません。もしも地震や台風の際にはここは皆さんご近所の「同調バイアス」をはたらかせるようにしましょう。 

さぁ、これ見よがしに「逃げるぞ!!!」とご近所にひびくように大声を出しながら「ワ~!」と逃げましょう。 

また、この「同調バイアス」は学習塾の指導にもつかえます。教室全体にやる気(モチベーション)がみなぎれば全員にモチベーションは広がります。方法はあります。 

ここは赤間塾のヤナギのウデの見せ所ですね。がんばりますよ!!