やる気の科学 第4巻
やる気の使い過ぎにご用心
やる気の科学 第4巻
【やる気は使いすぎると疲労する】
なんとなんと、やる気は消耗してしまします。えらいことですよ。
どうもやる気がしない。やる気を出してもすぐにやる気が失せる、長続きしない。
そんな心理状態にあなたも悩まされたことがあるでしょう。
この状態は子供の勉強だけじゃないですよね。仕事でも家事でも、何でもかんでも起こります。
ただ、ご安心ください。限りなくやる気を出し続けられる人なんて世界中を探しても一人もいません。
地球の裏側で打って投げての大活躍の「ショータイム」の大谷翔平さんだって無理です。
「モチベーションを維持するのに必要な意志力は、筋肉と同じように疲労するものだと考えられており、『自我喪失』と呼ばれます」(Newton 2022年4月号P40慶応大学 鹿毛正治教授)
【やる気の使い過ぎ実験】
アメリカの心理学者ロイ・バウマイスターらは1998年、「自我消耗」について検証した実験の結果を発表しました。
バウマイスターさんたちは実験参加者達を2グループに分けました。おなじみのAグループとBグループです。
実験室にはチョコチップクッキーのおいしそうなにおいが充満しております。そして、テーブルにチョコチップクッキーとラディッシュ(カブですね)が置いてあります。
その上、参加者たちは空腹で来るように求められていました。
腹ペコです。
・Aグループにはチョコチップクッキー(赤間塾のヤナギも大好きです)を好きなだけ食べてよいとしました。
・Bグループにはチョコチップクッキーは食べてはだめ!ラディッシュ(カブです。生です)を食べるように指示しました。
食べてもらった後に、いくら頑張っても絶対にとけない一筆書きのパズルに挑戦してもらいました。(こりゃぁ、意地悪だわ・・・)
その結果は・・・
・Aグループ(チョコチップクッキーたらふく組)はパズルに取り組んだ平均時間は19分間(けっこうねばりました)。
・Bグループ(無理やり生カブを食わされた組)の平均時間は8分でした。
(チョコチップクッキーを我慢してカブを食わされた上に、やってられるか!)
目の前にあるクッキーをがまんしたBグループは限られた貴重な「意志力」を「我慢」に消費してしまってパズルに取り組むモチベーションを維持できなかったと考えられます。
そりゃ、好きなもの我慢して、嫌いなもの食わされて、やりたくもないムダなものをやらされたらたまったものではありませんよね。
赤間塾のヤナギならクッキーを前にして「生カブを食え!」と言われた時点で、「巨人の星」の星一徹(お若い人はわからないでしょうね)のようにちゃぶ台をひっくり返しますよ、ほんとうに!。
【やる気は筋トレ】
「ここで重要なことは、意志力は筋肉と同じように休めば回復するし、きたえることもできるということです」(Newton2022年4月号P41)(慶応大学教授鹿毛正弘教授)
例えば、努力が必要なこと(苦手科目のお勉強)でもくりかえすうちに習慣となり、意識せずに行動する(勉強する)ようになり、意識しないで行動できる(習慣化)できれば「自我消耗」を避けられる、ということです。
別の研究では、子供が目の前のマシュマロを我慢できるかどうかを観察しました。(ひどい!)
よく耐えた子はマシュマロを見ないようにしたり、目をふさいだり、歌をうたって気をまぎらわしたりしていたそうです。(けなげや!おっちゃん、涙が出そうや!)
【「やる気は根性や!」はおおまちがい】
こうしたスキルはトレーニングによって身に着けることが可能です。
「そうか、やっぱりきたえてきたえて、きたえあげるんだ!」「千本ノック!腕立て100回!腹筋100回だ!」と叫んだスポ根教師、お父さん、ダメな塾教師のヤナギ!
あなた、そんなものが習慣化すると思いますか?
さっきのチョコチップクッキーとカブの実験を忘れてしまったのですか?
「自我消失」覚えてますか?
【苦手科目は一発で筋肉断裂!】
赤間塾のヤナギの経験でも苦手科目は一度ギブアップしたらおしまいです。
言ってみれば一発で筋肉断裂で再起不能です。
投手ならトミー・ジョン手術です。(大リーグの大谷翔平、ダルビッシュが受けてます。手首の普段使わないじん帯を肩に移植します。)
やる気の筋肉だっていきなり重い筋トレやったら筋肉痛、肉離れ、筋肉断裂、疲労骨折ですよ。じん帯断裂です。(これは赤間塾のヤナギもやりました、手術でした・・・痛かったなぁ・・・)
少しずつ、少しずつ、簡単な問題で自信をつけてもらって、ゆっくり、ゆっくりきたえないといけませんよ。
そうして「近傍目標」>「達成体験」>「内発的動機づけ」>「習慣化」>「やる気」ですよ。
【「やってもムダ」という経験が無気力状態を生む】
どうですか?なんて恐ろしいタイトルでしょう!「やってもムダ」「無気力」ですよ!
学校の教師や塾の講師、そして保護者の方の最も恐れるワードのベスト1、2位、金メダル、銀メダルです。おそろしや、おそろしや・・・。
特にスポ根系のお方!ここからがキモのキモですよ。
ここからが、この「やる気の科学第4巻」のクライマックスです。
お見逃しなく!パンパカパーン!!!!
そもそも、やる気が出ないという場合はどういうことだろう?
このことを考えると非常に深刻です。
【無気力の実験】
無気力についてはたいへん有名な実験があります。
アメリカの心理学者(それにしてもアメリカばかりですね。心理学者は・・・)マーティン・セリグマンらは1967年、イヌを使った研究結果を発表しました。イヌを2つのグループ分けます。ここでは、いつものようにAグループ、Bグループとしましょう。
①このAグループ、Bグループのどちらもイヌを固定して動けない状態にしておいて足にコードをつないで電気ショックの苦痛を与えます(キャンキャン)。
・Aグループのイヌには目の前のパネルを押せば電気ショックが止まります。
・Bグループのイヌには何も電気ショックを止める方法がありません。(絶望です!)
以上A,Bグループともに何度も電気ショックを繰り返しました。(動物虐待です、現在なら問題ですね。ちょっとできない実験かもしれません)
②そのあとAグループ、Bグループともに別の場所に移します。
今度は床から電気ショックをおみまいします。ただし低い柵があるだけで簡単に逃げることができます。
・Aグループのイヌたちのほとんどは当然さっさと柵を飛び越えて逃げてしまいます。(こんなところにはいられない!)
・Bグループのイヌたちのほとんどは何度電気ショックを受けても、そして電気ショックを与えるような合図をしてもただただ、耐え続けるだけでした。
Aグループです。
左の場面(大きな絵の方)ではパネルを鼻で押せば電気ショックは止まる。
右の場面でイヌたちはさっさと安全な床に移動します。照明は電気ショックの合図です。
Bグループです。
左の場面(大きな絵の方)では電気ショックを止めるパネルはありません。
電気ショックから逃げることはできません!
右の場面でも電気ショックの床から逃げずにひたすら耐えます。電気ショックの合図の照明がついても同じです。ああ無情!
ちなみに上のイラストの白黒のイヌは以前、不肖ヤナギが飼っていた「いぬちよ」です。アメリカの有名なビーグル犬とは何の関係ありません。大人の事情をお察しください。
【何をやってもムダだ・・・】
「最初の場面で電撃を止められないイヌたち(Bグループ)は『何をやってもムダだ』ということを学習してしまい、やればできるはずの状況でもモチベーションが生じなかったと考えられます」(Newton2022年4月号P42)(慶応大学教授鹿毛正弘教授)
こうした状態は「学習性無力感」と呼ばれています。
そして何より恐ろしいことに人間でも生じることがわかっています。
一方、Aグループの場合、最初の場面で電気ショックを止める経験をしたイヌたちは「やればできる」ことを学習していて、次の場面でもさっさと逃げ出すことができるのです。
行動に結果が伴うと認識することは「随伴性認知」とよばれ、モチベーションにおいて重要な要素とされています。
私が初めてこの実験を知ったのは大学生のころでした。
偶然見ていたテレビの特集番組でやってたのですよ、それも実験中のビデオを流して。
ショックでしたねぇ。
イヌさんのあの、不安そうな、そしてあきらめの目、忘れられませんね。ああ無情!
ここには大きな大きな教訓があります。
勉強、スポーツ、求職活動、なんでも「やっても成果がない」「どうせダメだ」という経験を繰り返すとモチベーションにおいて致命的です。
(他にも例があります よろしければ不肖ヤナギのブログ「小説、漫画、映画の思い出」も併せてお読みください)
「やればできる!」の経験をどれだけ積み重ねることが極めて重要なのです。
たとえ小さいことでもいいのです。
小さくても「やればできる!」を積み重ねることが重要なのです。
【日本の教育ステムは電気ショックだらけ・・・】
日本の小学校、中学校、高校、そして社会全体で、このことはどれだけ重要視されてるでしょうか?
テストで平気で赤点付けて、成績表に1や2をつければ「あいつはダメだから」「頭悪いから」で終わりです。
学校内の評価は「アイツ、アタマワル」でおしまいです。
そりゃ、口では「そんなことは言ってませんよ」「そういう意味ではないですよ」「システムとしてそういうことになってます」とおっしゃいますよ。
逃げ口上です。何にも解決になってません。
これじゃ電気ショックの連発です。
そして電気ショックを受け続けた子供たちは自分ではどうしようもありません。
耐えるだけです。
【日本の未来が心配】
耐えた後はどうなるでしょうか・・・少しでも考えればわかることです。
日本の教育システムの旧態依然としたこの状況をなんとかせねばなりません。
結局、やれ「競争だ!」「授業時間の増加だ!」「英語のリスニングを鍛えろ!しゃべれるようにせい!」「国語にゼニにもならん、小説や詩はいらん!」「プログラミングを教えろ!」あげくの果てに「株の売り買いを教えろ!」。
経済界の思い付きをそのまま真に受けて愚策の連続です。
学校で教えるべきことは生きるための学習の基礎でしょう。
学校の教師の方が気の毒です。何よりかわいそうなのは子供たちです。
日本の未来が不安で不安で仕方がありません。
【いじめの被害者の電気ショック・・・】
また、いじめの問題も頭をよぎります。
いじめがクローズアップされる時があります。
たいてい被害者が自殺してしまったあとです。
必ず事件が起きた直後に学校と教育委員会は「いじめはなかった」とシレッとおっしゃいます。
たとえ、いじめの記載のある遺書があっても平気です。
そして何年も何年もたった後に、裁判などでの遺族の方の必死の努力の後で「あったかもしれない・・・」となります。
そして「なぜいじめに気がつかなかったのか」とマスコミの方が尋ねると・・・
「以前は、そういうことも言っていた。」
「しかし、自殺の前には何も言ってこなかった。だから安心してた。」
「被害者が声を上げてくれれば、助けた。」などとおっしゃいます。
以前、赤間塾のヤナギは「こいつらはうそをついている!気がついているにきまっている!言い逃ればかりしやがって!」そう思ってました。
被害者のご両親も「自殺の前日、当日の様子はとても明るかった。」ともおっしゃいます。
赤間塾のヤナギは「けなげだな、教師とご両親に心配かけたくない一心でそうふるまってたんだな」と考えておりました。
しかし、この稿を書きながらやっと気がつきました。電撃を来る日も来る日も何度も何度も受けたら黙ってしまいます。
初めは叫び声も上げるでしょう。
しかし最後には「随伴性認知」で何も言わない、行動しない。
何にもならない、かえって電撃がきつくなるので教師にSOSは出しません。
「学習」してしまいます。
かの有名な教育評論家たちが「被害者は声を上げなくてはいけない」なんて土台無理なのです。
このことを常識にしないといけません。
せめて赤間塾ではフリースクールも含めて子供たちに「やればできる」ことを必死に、そしてしっかりと教えていきます。
(参考文献 Newton2022年4月号P40~42)